世の中そんな甘いもんじゃないよ
※実際にあった話です
居酒屋でたまたま隣り合わせた二人の男が話し始めました。
「ここは酒の量りがいいよねー」
「そうですねー、酒飲みはお猪口一杯分でも余計に入っていると嬉しいですからね」
「そうそう、あんたもなかなか呑み助だね」
「エー、酒飲みはみんなおんなじでしょ」
「それはそうだ。ところであんた、あんまり見ない顔だねー」
「えェ、はじめてなんですよこの店、今日が。いやねー、外歩いてると、突然このー、焼き鳥の香ばしいたれの匂いが鼻に入ってきてね、もう堪らなくなって入っちゃつたんですよ」
「そうかい、ここの焼き鳥はまた旨いからねー、先代からだよーここのたれは」
「そうですか、そんなに旨いですか」
「何なら食べてみなよ、もうすぐ来っからよー。ほらほら来た来た、いいから一本やんなよ」
「そうですか、すんませんねー、そいじゃひとつ、ごちんなりますよ。おっ、こりゃ旨い、肉もいいけど、たれが確かにうめぇや」
「そうだろ。ここんちの食ったらよー、よそのなんて食えねぇーよ」
「ほんとですね、確かに旨いや。こんな旨いのないねー、初めてですよ、こんなうめーのは」
「お前さん味にもうるさいんだねー」
「いいえ、なにね、うるさいってわけじゃないんですけどねー、やっぱり人間どうせ食うんなら旨いもん食ってみたいですからねー」
「そうかい。旨いってぇばよー、俺の行ってる現場の近くのうなぎ屋、これがよー、おめえほっぺたが落ちそうなくらい旨いんだ。口に入れるとよー、こぉー、トローツと、とろけちゃうってーのかねぇー」
「そんなに旨いんですか」
「そりゃーうめーなんてもんじゃねぇな、あれは一番だな」
「そうですか」
「おい、おめぇ疑うのか。そうですかじゃねぇよー、嘘だと思ったら行ってみなよ」
「大将そんなに旨いんだったら是非ご馳走してくださいよ」
その瞬間、大将と呼ばれた男は、すっと身を起こして、
「あんた、ずうずしいねー、(語気を強めて)世の中そんな甘いもんじゃないよ」