やせ我慢

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昔こんな話を聞きました。

両親が家の新築を頼んだ時の棟梁が、生粋の江戸っ子。腕は確かでしたが、なかなか頑固だったそうです。ここをこうして欲しいと言うと、「旦那ねー、これはそうしねぇーと収まりがわりいんですよ」それでもなお、そうして欲しいと言うと、「あっしのねー云うとおりでネエと、出来上がりの見栄えが良くねぇんですよ。それでも、よがすか」と、半ば恫喝とも取れる強制的なやり方で、自分流に仕事を進めていったそうです。

まあ、それだけ自信があったのでしょうが、当時の日本では、えてしてお職人さんというものは、こういうタイプの人が多かったのです。

この棟梁根っからの蕎麦好きで、何か店(てん)やもんを取りますというと、必ず、もり蕎麦だったそうです。そしてまた食べ方がユニーク。「蕎麦はねー、汁(つゆ)なんかつけてたんじゃ、ホントの味がわからねぇ」と言っていつも汁をつけずに食べたそうです。面白い江戸っ子があったもんです。

ところが家の新築が終った途端、具合が悪くなり、寝込んでしまい、とうとう危篤になってしまいました。そこで見舞っていた人が、「棟梁何か言い残すことは無いかい」と尋ねると、小さな声で「死ぬ前に、蕎麦に汁をつけて食いてえ」と言ったそうです。

江戸っ子のやせ我慢も、程々にしないといけませんね。